【2014皐月祭連動ストーリー】ろすとめもりーず#5

#4

 

#5-第5話『Lost memorys』

 

「誰かの形見…とか?」

直感も、確信もあったわけじゃない。

けれど本当に、なんとなく。

なんとなくそうなんじゃないかと思った。

「……」

「どうしたの?」

「うん、私もなんとなく、そう感じたから…」

「そっか…」

言葉が止まる。空気が重い。

それはそうだ。

”形見”という事は、親しい人の死と直結しているのだから。

「けど…なんでわたし、そんな物を持ち出してたんだろう?」

「そう…だよねぇ…」

そこまで言ってからふと思い出す。

ついさっき、直接ではなく、これを見たような気が…

「そうだ!パンフレット!」

「え?」

「学園祭のパンフレット!確か詩歌の後ろにこれが写ってた!」

「あ…!」

改めて確認しなおす。

ポーズをとっている詩歌の後ろ。

静かに光を放つそれは、確かにあった。

「学園祭のために、持ち出してたんだ…」

「…思い出した!雰囲気がいいからって使ってて、落ち着いたからって持ち帰ったんだ…!」

「…待って?なんで持ち帰ったはずなのに持ち歩いて…持ち帰るところだった?」

「それは…その…」

歯切れが悪い。

思い出せてないのか、それとも、言い出しづらい事なのか。

「言いにくいんだったら言わなくても…」

「あ、その…ね?思い出しはしたんだけど…その…」

「その?」

「家に帰って、これを片付けようとして…ちょっと高いところにしまっておいたから踏み台に乗って…」

「…え?」

ああ。

なんとなく落ちが見えた気がする。

「踏み台がちょっと低くて背伸びしてしまおうとして…そこでずるっ…と…」

「転んだ、と…」

「うん…」

真っ赤になってうつむく詩歌。

それはそうだ。

ここまで騒いでおいて、結局記憶喪失の原因が、

転んで頭を打つなんていう古典的なそれだったんだから!

「それで…今はどのくらい思い出せたの?」

「少しだけあやふやな部分は残ってるけど、ほぼ全部、かな…?」

「結局記憶喪失の原因は転んだ事?」

「あ、えっと…直接ではない、かな?」

「どういう事?」

「最後に覚えてるのが、上からの衝撃だったから…多分直接はこれが頭にぶつかった事じゃないかなー…と」

なるほど。

古典は古典でもそっちの方だったと。

「けど、高い所から落ちたにしては全然壊れてないよね。詩歌さんの被害も記憶失っただけですんだって言うのはある意味奇跡なんじゃ?」

「うん、それなんだけど…これ、おばあちゃんの形見なの」

「ふんふん」

「だからね、もしかして壊れなかったのも、私が記憶を失っただけですんだのも、おばあちゃんが守ってくれたんじゃないか…って…」

「そっか、なら、そうだよきっと」

「え…笑わないの?」

「何か不思議なことがあった時、それがいい事だった時。私は、それを奇跡だって信じることにしてるの」

「どうして?」

その疑問に、私は笑顔でこう答えた。

「だって、その方が素敵じゃない!」

「じゃあ…もしかして記憶喪失になったのも、そうだったのかも?」

「え、なんで?」

「だって、こうして美咲さんとお友達になれたから…」

笑顔でそう言う詩歌に私もまた、とびっきりの笑顔でお返しをした。

 

その後。

記憶を取り戻した詩歌が家族に連絡をして、迎えに来てもらえるという事だったので、お互いのアドレス交換をして、その場は別れた。

日に数回づつのメール交換をする仲。

そんな関係がしばらく続いたあと、私はもう一度奇跡を体験する事になるのだけれど、それはまた別のお話。

続きは、また別の機会に…