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#1-第1話『My favorite』
「多分きれいな名前だ!」
名前の感じ。
私がそう言われて真っ先に思い浮かんだのがそのイメージだった。
「きれいな…?」
「なんだろう、こう…詩的というかそんな感じの」
「詩的、詩的ですか…うーん…」
彼女は首を捻って考え始めてしまう。
それはそうだ。
こんな抽象的な事だけで思い出せれば苦労はない。
そもそもまるで見当外れな可能性の方が高いのだから。
「あ…無理して考えなくても…ゆっくり思い出した方が…」
「いえ、何かモヤッと感じるものが………あっ…」
「どうかした?」
「”詩歌”…今、思い浮かんで…」
「詩歌、それがあなたの名前?」
「そうです!思い出しました!わたしの名前、詩歌です……多分」
なんということだろう!
最後は少し怪しくなってしまったけど、本当にこの名前だったなら詩的もいいところだ。
「何か確かめる方法があればいいんだけどね…身分証明書とかはもう確認済みだろうし…」
「あ…忘れてました」
ガクッ。
「いやいやいやいや!持ち物とかまず最初に確認するところだよね!?」
「ほ、ほら…記憶喪失ですし…あ、お財布がありました!」
そこはただの天然じゃないか、と突っ込みたくなったけどぐっと堪えて一緒に財布の中身を確認する。
少々の紙幣と小銭、コンビニのレシート、レンタルビデオ店の会員証、そして…
「図書館の利用カード…”鈴森詩歌”!」
「やったあ!ビンゴですね!」
本人の記憶とカードの名前。当然偶然ではないだろう。
これがもし他人の物だったとしても、一歩彼女の記憶に近づいたのは間違いなかった。
「えっと…じゃあ、鈴森さんって呼べばいいかな?」
「あ、詩歌の方でいいですよ。その方が呼ばれ慣れてたみたいですから」
「じゃあ…詩歌さん」
「はい!えっと………」
口ごもる詩歌。そこでやっと思い出した。
「ゴメン、私の名前、言ってなかったね…小日向美咲、美咲でいいよ」
「はい、美咲さん!ありがとうございます!」
見かけたときの消え去りそうな様子から、名前という色を取り戻した彼女。
全ての色を取り戻した時、どんな顔を見せてくれるのか。
私は少し、楽しみになっていた。
「さて…名前が分かったところで、次考えてみようか?」
「そうですね…けど何から…」
名前が分かったことで少し打ち解けて、会話も柔らかくなった。
さすがにずっと敬語同士では疲れてしまう。
「図書館のカードを持ち歩いてるって事は、読書が趣味とか?」
「うーん…どうなんでしょう?そこまで読んでたという印象もないんですけど」
「ちょうどいいから趣味から考えてみようか?」
「そうですね、えっとヒントになりそうなものは…この3つ、ですかね?」
コンビニのレシート、1週間ほど前の日付で買っている物はスイーツと無糖の紅茶。
レンタルビデオ店の会員証、それなりに有名なチェーン店で、レパートリーも豊富。
図書館の利用カード、近所の公立図書館で、近隣自治体では最大規模。
「うーん…」
#2へ→
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第1話、今回のテーマは”趣味”です。
投票、ステージイベントへの参加お待ちしています!
投票、ステージ1回目は終了しました。
2Pt・【a】スイーツ食べ歩きだ!
3Pt・【b】映画鑑賞かなぁ…
5Pt・【c】読書!やっぱり読書だよ!
で、読書に決定しました。
では#2をどうぞごらんください。